年金改正で公的年金増加する?手放しで喜べない2つの理由

マネープラン

総務省が発表した23年の家計調査では、2人以上世帯の消費支出が新型コロナウイルスが流行した2020年以来3年ぶりの減少となりました。物価高の影響で、食料品など日用品の節約による買い控えが影響したようです。

年金が主な収入源であるシニア世代にとって物価高はとても気になるところです。

このような中、厚生労働省より令和6年度公的年金改正の発表があり、受け取る年金が前年度より増えることが決定しました。しかし、年金額の増加を手放しでは喜べない理由があります。

令和6年度は年金額が増加?

令和6年度の公的年金額が改定され、年金額が増加されます。

厚生労働省の発表では、年金額が前年度から2.7%引き上げられ、68歳以下の場合、厚生年金に加入していた会社員らの厚生年金(老齢基礎年金含む)は、平均的な収入で40年間働いた会社員と専業主婦の世帯(モデル年金)で2人で月23万483円となり、前年より6、001円増えるとのことです。

この公的年金額の改正は、総務省が2024年1月に公表した「令和5年平均の全国消費者物価指数」(生鮮食品を含む総合指数)の物価変動率が前年比で3.2%上昇したことを踏まえてのものです。

年金額の改定は、物価変動率や名目手取り賃金変動率に応じて、毎年度改定を行う仕組みになっています。物価変動率が名目手取り賃金変動率を上回る場合は、支え手である現役世代の方々の負担能力に応じた給付とする観点から、名目手取り賃金変動率を用いて改定することが法律で定められています。(厚生労働省資料より)

したがって、今回の改正は、物価変動率が名目手取り賃金変動率を上回っており、年金額改定の基準は名目手取り変動率となります。

名目手取り賃金変動率とは

年金額改定の基準となる名目手取り変動率は、過去3年間の平均実質賃金変動率、前年の物価変動率、3年前の可処分所得割合変化率から算出されます。令和6年度の指標は以下の通りです。

【令和6年の名目手取り賃金変動率】

  • 実質賃金変動率(令和2~4年度の平均) ▲0.1%
  • 物価変動率(令和5年度の値) 3.2%
  • 可処分所得割合変化率(令和3年度の値) 0.0% 
  • 名目手取り賃金変動率 ▲0.1% + 3.2% + 0.0% = 3.1%

2020年度に新型コロナ禍の影響で実質賃金変動率が下落しているため、名目手取り賃金率が抑えられています。

マクロ経済スライドとは

従来、年金額の見直しは、物価や賃金に連動して上昇・下落していました。

しかし、少子高齢化の進行によって公的年金の支給額が増える一方、保険料を負担する現役世代が減少するなか、このままでは将来の現役世代の保険料負担が増えてしまうという懸念が生じました。

そこで、こうした負担を抑えるための仕組みとして2004年の年金制度改正でマクロ経済スライド制度が導入され、以後、マクロ経済スライドにより物価と賃金水準(名目手取り賃金変動率)の変動率から「スライド調整率」をマイナスし、年金の給付水準を緩やかに調整しています。

【令和6年のスライド調整率】

  • 公的年金被保険者総数の3年間平均 ▲0.1%低下
  • 平均余命の伸び率(定率)▲0.3%
  • スライド調整率 ▲0.1% + ▲0.3% = ▲0.4%

この結果、名目手取り賃金変動率3.1%ースライド調整率0.4%=年金支給額変動率2.7%となりました。

実質は目減り

2024年4月から年金の支給額は、物価の上昇に伴い、前年度から2.7%引き上げられることになり、伸び率はバブル期以来で最も高くなりました。

しかし、将来の年金給付水準を確保するために「マクロ経済スライド」が発動され、スライド調整率によって、物価上昇率3.2%の伸びより年金額の伸びは低く抑えられ、実質的には目減りとなります。

今後も保険料を支払う現役世代は減少していくので、物価が上がると、一方での「マクロ経済スライド」発動により、年金額は実質目減りしていく見通しです。

厚生労働省では、ことし5年ぶりに行う「財政検証」の結果を踏まえ、年金の給付水準の低下を抑える制度改正の検討を進めることにしています。

あなたの年金額は

日本年金機構から、毎年誕生月に自身の年金記録(保険料納付額、月別状況、年金加入期間、老齢年金の種類と見込み額)を記載した「ねんきん定期便」が郵送されます。

「ねんきん定期便」は必ず確認し、年金加入期間や保険料納付額で、気になることがある場合は、ただちに最寄りの年金事務所に問い合わせることが大切です。「もれ」や「誤り」があった場合でも、「年金加入記録回答書」を提出すれば修正できます。

また、国民年金の保険料を大学や大学院に通っている期間に払っていないために、年金が満額支給されない場合は、60歳から64歳までの間に「任意加入」をして保険料を追加で納付すれば、保険料を支払った月数に応じて受け取る年金額を増やすこともできます。

2022年4月より、厚生労働省が試験運用を開始した「公的年金シミュレーター」でも年金額を確認することができます。これまでの加入歴や今後の働き方、年金受給開始時期等を入力すると、年金受給額がどのくらいになるか簡単に試算できますので、年金額の見える化に活用することをおすすめします。

人生100年時代

このように、今回の改正では、年金額は増えますが、物価上昇により実質目減りです。そして、今後も物価上昇と少子高齢化の影響で年金が実質目減りしていくことが想定されます。

そのため、今後は自身の年金額を確認した上で対策を講じることが必要です。具体的には、60歳を過ぎても働いて収入および厚生年金支給額を増やすこと。年金の繰り下げ受給を行うこと。新NISAなどの投資により資産運用を行うことなどが挙げられます。

なお、繰り下げ受給は、年金の受け取り開始を65歳から遅らせると、1ヶ月につき、0.7%年金が増やすことができます。

「人生100年時代」に年金の受け取り方を決めるには、自らの働き方、退職金や資産などに加えて、暮らし方や健康状態も考慮することが大事です。そのためには、まず自分の受け取れる年金見込み額を確認して、総合的なライフプランを立てることが重要です。

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