先日、日本経済新聞を読んでいると、4月1日に金融経済教育推進機構が発足するとの記事がありました。金融経済教育推進機構とは、官民連携して国民の金融リテラシーを高める活動を行う組織のようです。
これは、政府が掲げている「貯蓄から投資へ」の取組みをさらに推進させるものです。機構は個別相談を受けたり、金融教育の講師を務めたりするアドバイザーの養成や認定などを行います。そのことにより、金融経済教育を拡充させ、国民の金融リテラシーを高めることが狙いです。
それではなぜ今、「貯蓄から投資へ」の取組みのなかで、金融リテラシーの重要性が高まっているのでしょうか。
金融リテラシーとは何?
金融リテラシーとは、お金に関する様々なことを自分で考え選択する能力のことをいいます。つまり、経済的に自立し、より良い生活を送るために必要なお金に関する知識を得て判断するスキルを指します。
人生100年時代、物価上昇、低金利などお金を取り巻く不安のなか、老後を自分らしく安心して人生を楽しむためには、しっかりとした資産形成が必要です。
しかし、投資をはじめて行う方や投資経験が浅い方にとって、十分な金融リテラシーを待たないまま金融商品に投資することは、家計にダメージをもたらすリスクを抱えることになります。近年は投資詐欺も増加し、SNSや偽メール、偽サイトを経由したフィッシング詐欺なども横行しています。それらのことにより金融リテラシーの必要性は年々高まっています。
金融経済教育の状況
金融広報中央委員会が2022年に行った調査では、金融知識と判断力を問う正誤問題(25問)での正答率は55.7%でした。とくに知識面では「インフレ」や「分散投資」、行動面では「お金への注意」についての項目で正答率の平均を下回っていたようです。
同調査で金融経済教育を受けた経験があると回答した割合はわずか7%であり、まだまだ金融経済教育が普及している状況にはありません。政府は、このような状況を打破し、国民の金融リテラシーを高めるために、金融経済教育を受けた人の割合を現状の7%から28年度を目途に米国並みの20%へ引き上げることを目標にしています。
投資に対する誤解
人生100年を安心して暮らしていくための備えとして資産形成が必要です。しかし、投資に関しては未だに国民からの理解は得ていないようです。
日本では昔から、労働は尊いものであり、貯蓄は美徳であると教えられてきました。一方、投資は特別な人が行うものであり、危険で好ましくないものとされてきました。
阿弥陀の言葉にある「好色・博奕・大酒 三重飼 これ古人の掟なり」のように、色を好むこと、ギャンブルをすること、大酒を飲むことの3つは身を滅ぼす原因とされ、古くから強く戒められてきました。投資はギャンブルではないのですが、「投資で儲けたとか、損した」とかが話題になるため、投資は身を滅ぼしかねないものと、誤解されているのではないかという気がします。
2022年8月に発表された日銀の資金循環統計によると、家計の金融資産構成を見た場合、54.3%が現金・預金で、株式や投資信託は14.7%しかありませんでした。
また、金融広報中央委員会の調査においても、今後、金融商品に投資することを考えているかの質問に対し、74.2%の人が投資しないと回答しています。この調査結果からも依然として投資に関しては、まだ心理的な壁があるようです。
この投資に対する誤解は、資産形成教育を受ける機会が少ないことにより金融知識が不足していることに起因しています。今後、人生設計やお金の使い方など、老後に向けた資産形成をするためには、お金に関して正しい知識を身につけることが大切です。
身に付けるべき4つの金融リテラシー
では、どのようにして金融リテラシーを高めればよいのでしょうか。金融リテラシーが高い人は、次の4つを備えている傾向があるようです。
一つ目は、家庭の収支管理を適切に行い、習慣化させることです。家計管理は生活する上で基本となりますので、家計の赤字を解消して黒字を確保することはとても重要です。
二つ目は、ライフプラン(人生設計)を明確にすることです。将来に向けた生活設計を行うことで計画的にお金を管理することができます。
三つ目は、金融と経済の基礎知識と金融商品を選ぶスキルを身に付けることです。金融取引の基本として、契約するとき、契約にかかる基本的な事柄を確認する習慣であったり、情報の入手先や注意点などを理解しておくことが大切です。また、資産形成商品や保険商品の選択の際なども商品についてのリスクや効果も理解することが重要になります。
そして最後の四つ目は、外部の知見を適切に活用することです。金融商品を利用するにあたり、自分でよくわからないことは、外部の知見を活用して判断することが大事になります。
資産管理の重要性
前述した通り、老後不安を解消するために、資産寿命を伸ばす手段として、投資に興味を持つ方は増えています。新NISA開始の影響もあり、日経平均株価の23年度の終値は4万0369円となり、1~3月期に20.6%上昇しました。
今は、低金利で物価高のインフレの時代ですが、金融・経済をめぐる環境は時代によって大きく変わります。今後、様々な金融商品やサービスが出てくるなか、そうした変化に取り残されずに、新しい情報を得て、自分に合った金融商品、サービスを活用することが大事です。
とくに、年金が主な収入源となるシニア層は、終身にわたる資産管理が重要になります。そのためにも、老後は年金受給額などの範囲内で支出を行えるライフスタイルに切り替え、金融リテラシーを高めて、自らの資産の管理・運用を心がけることが大切です。