「資産形成には興味はあるけど、今から投資って遅いんじゃない」
長引く物価高のなか、預貯金だけでは実質的にはお金の価値は目減りしてしまいます。人生100年時代を迎えた今、ゆとりあるセカンドライフを送るためには、資産形成における正しい知識を身につけ、賢く運用することが大切になります。
時間的な制約のあるシニア層にとって、これからの資産形成において不安を持っている方は多いと思います。投資の基本は、長期・積立・分散です。早く初めて長い間続けるほど効果があるといわれます。
老後を豊かに過ごすために、前向きに資産運用することは良いことです。一方で、投資にはリスクがありますので、よく考え、慎重に始めることが大切です。
資産運用の状況
日本経済新聞が3月下旬に調査会社マクロミルを通じて行った調査では、資産運用のイメージとして最多は将来の生活資金の蓄えであり、その次が貯金のようにコツコツ行うとのことでした。また、給料や年金などの定期収入のうち何%を資産運用に回しているかとの問いには、資産運用に10%以上回している人が50%に達し、20%以上の人も26%に上っていました。とくに、20代は10%以上回している人が62%、20%以上の人が36%に達し、資産運用に関する関心の高さがうかがえます。
50代からの投資戦術
投資は余裕資金で行うことが鉄則です。この鉄則を外してはいけません。
投資で成功するためには、冷静で合理的な対処が大事です。しかし、余裕資金以外で投資をしてしまうと感情的な判断に左右されることが多くなります。たとえば、株式市場の動きは、相場が上がったり下がったりします。たとえ、下がっている相場であっても、待っていれば相場は上がる可能性があります。しかし、感情的になると、上がるまで待つことができません。その結果、損をすることになります。必ず余裕資金で資産運用する鉄則を忘れないことです。退職金を元手に資金を全部投資に回すことは、最もやってはいけない行為です。
また、金融機関の窓口で薦められた金融商品を何も考えずに購入することは危険です。金融機関が薦める商品が必ずしも儲かる商品とは限りません。金融機関は会社が儲かる商品を勧める傾向にあります。会社は利益を上げなければいけませんので、担当者も会社が儲かる商品を売らなければいけません。顧客の利益を優先して提案する担当者もいますが、少ないケースだと思った方がよいです。
投資は、自身で投資に関する勉強や情報収集を怠らず行った上で始めることが大切です。
シニア世代の資産形成は、まずは新NISAのつみたて投資枠から始めることをおすすめします。新NISAの基本はインデックス投資による投資信託です。投資信託の商品のなかでも、手数料が安く、利回りが3~4%くらいの商品を選ぶとリスクは低くなります。
毎月コツコツと積み立て、長期にわたり投資を続けることで複利効果が大きくなります。つまり、利益が利益を生む好循環で雪だるま式に利益が増えます。目先の相場に一喜一憂せず、将来に向けて長い目で資産運用を行うことが大事です。
余裕資金の範囲内で、成長投資枠でも投資信託に積み立てを行えば、より安定したリターンが期待できます。
リスクは最小限に
投資で大きな利益を得るためには、大きく相場が下がったタイミングで多くの資金を投入し、大きく相場が上がったところで売ることが利益を最大にすると言われます。しかし、どの時点が相場の底値か天井かは誰にもわかりません。ハイリスク・ハイリターンを狙った投資を行うと、そのタイミングを計りながら失敗してしまいます。
50代や60代のシニア層は、これから定年を迎え、収入は現役時代と比べて大幅に減少します。そのためハイリスク商品に大きく投資することは避けるべきです。シニア層が投資するには、リスクを低く抑えながら安定的に利益を出すことを優先することが大切です。そのためには、長期・積立・分散の投資の基本スタイルを守り続けることが有効です。
リスク許容範囲を知る
50代や60代のシニア層は、投資を行う場合、運用期間は限られます。シニア層にとって、まず初めに考えることは、自分自身のリスク許容度は低いことを知ることです。
20代や30代の若いうちは、仮に運用に失敗したとしても、長い人生のなかで取り戻す機会はいくらでもあります。しかし、定年を控えた50代、定年を迎えた60代にとって、投資による損失は老後の生活において切実な問題となります。
シニア世代にとって老後の主な収入は年金のみとなります。預貯金などの資産を取り崩しながら、資産寿命を延ばしていくためには、資産運用のリスクは抑えなければなりません。
また、SNSでの投資情報や投資本、知人の意見など、情報が偏ってしまうとリスクが高まってしまいます。知っているつもりにならないで、複数の様々な情報を取り入れ、投資判断することが重要です。中途半端な知識を持っている人の方が、過信して投資に失敗するケースも多いようです。最近は、投資詐欺も増えているようです。元本保証で儲かるようなおいしい話はありません。投資はリスクがあるものと理解することが大切です。
シニア層の投資では、できるだけリスクを小さくして資産寿命を延ばすことが肝心です。是非、自分の許容範囲の中で賢く資産運用し、お金に余裕のある豊かな老後生活を過ごしてほしいと思います。
(参考文献)
敗者のゲーム チャールズ・エリス 日本経済新聞出版 2022年11月
お金の賢い減らし方 大江英樹 (株)光文社 2023年7月