近年、価値観の多様化が進み、個が重視されるようになっています。
そのなかでも、社会的・文化的な性差をなくす「ジェンダーレス」という考え方はメディアを通じて、世間にかなり広く浸透してきました。
最近では、新しくジェンダーフリーという言葉もよく耳にします。
今の時代、シニア世代にとっては男女差別や偏見・思い込みなど、従来の固定観念に縛られていると、心の健康まで悪影響を及ぼしてしまうようです。
ジェンダーフリーとは?
ジェンダーフリーとは、「性別にとらわれず、それぞれの個性や資質に合った生き方を自分でできるようにする」との考え方です。
例えば、昔ながらの「女性は家事、男は仕事」といった固定観念を押し付けず、性別の違いによる役割をなくす取り組みがあげられます。
また、女性がリーダーや管理職に就けないケースや男女での賃金格差や男性の育児休暇に対する偏見などの課題もジェンダーフリーに該当します。
固定観念の強い人は病気になりやすい
日本の社会では、子どものころから潜在意識として「男らしさとは」とか「女らしさとか」という観念を植え付けるような教育がありました。例えば、ランドセルの黒は男の子、赤は女の子みたいに常識として暗黙の了承みたいなものです。
また、日本の社会では「男は強くならなければならない」「男は弱音を吐いてはいけない」「男は会社では出世しなければいけない」「女性は良妻賢母で家庭を守る」「女性は会社ではアシスタント業務を行う」みたいに、性別による役割に対し「こうあるべき論」が支配し、無意識のうちに固定観念が存在していました。
昭和の時代は、職場で女性が男性にお茶を出し、机の上にある煙草の灰皿を掃除する光景も見受けられました。きっと当時も、価値観が固定的で嫌だなと感じていた人もいたはずです。
京都大研究員らのチームが国際老年精神医学会誌に発表した2019年から20年にかけて高齢者2万6千人に実施したアンケートによると、「家の外で働くのは男性の役割」「家庭を守るのは女性の役割」といった男女の役割観の強い人は、そうでない人に比べて心の健康状態が悪い傾向がみられたそうです。
つまり、固定観念が強い人は、自らのこだわりや思い込みによる精神的な苦痛から健康を害するようです。
固定観念にとらわれないように
このように、従来の固定概念に執着することによって、精神的な苦痛から健康を害することは会社のなかでもよく見られます。
40~50代の人では、「男は弱音を吐いたら出世できない」とか「家庭に会社での悩みを持ち込んではいけない」という固定観念に執着した結果、自分で悩みを抱え込んでうつ病を発症してしまい、会社に出社できなくなるケースがあります。
私の周りでも、50代でうつ病になり、会社を辞めてしまった人がいました。 私も50代の頃は、「会社は戦場だ」「戦国時代と同じで戦いに敗れたら終わり。だから勝たねばならない。人に弱みは見せられない」と妻に話していたそうです。今では笑い話です。
60歳を過ぎると、働き方は一変します。仕事を続ける環境が整うはいいのですが、問題は組織内での立場が急激に弱くなり、給与も大幅に減少することです。
内閣府が発表した就業状況調査では、男性の場合、就業率が60~64歳で82.7%、65~69歳で60.4%となっています。その大半の方は、再雇用で嘱託・契約社員の立場で働くわけですが、パーソナル総合研究所が2021年に行った調査によれば、定年後の再雇用者の年収は定年前に比べ平均して44%も低下するようです。
しかし、多くの方は定年前とほぼ同様の職務でありながら権限や責任はなくなります。
60代は、再雇用の際に起きる自分のプライドと仕事や待遇のギャップから、「仕事にやりがいがない」「自分の働きが会社に認められていない」「元部下たちからの仕事の相談がなくなった」など、期待されていない喪失感から現状に対し不平・不満を持ち、働く意欲が低下するようです。
この場合も、「こんなはずじゃない。こうあるべきだ」といった固定観念が強く影響しています。
固定観念を変えられる?
戦後生まれた今のシニア世代は、子どものころから受験など常に激しい競争のなかで育ってきました。会社に入ってからも、「出世競争に勝たなければならない」「高収入を得て、社会的評価を得るべきだ」といった「男らしさ=競争に打ち勝つ強い男」を求められ、その呪縛にとらわれていました。
シニア層の意欲低下は、こうした人生への不安や葛藤を抱く固定観念が強く、定年を境に現状とのギャップによる抑うつ症状の心理的危機が押し寄せてくるようです。
呪縛から解き放されて、もっと自由に
近年の価値観が多様化し個を重視する時代では、従来の「こうあるべき」との固定概念は、自らの人生を生きづらくします。
人生の後半、シニア世代にありがちな「こうあるべきだ」という固定観念に執着した結果、自分で悩みを抱え込んでしまい、アルコール依存症やうつ病になって周囲から孤立することは避けたいです。そのためには、呪縛から解き放されて視野を広げ、もっと自由で柔軟性のある価値観を持つことが必要です。
固定観念を捨てて、楽しい毎日
私も退職前は「こうあるべき論」に執着するところがありました。固定観念から外れている考えに対し、一方的に自分の価値観を押し付けたこともあります。
退職後はその固定観念を捨て、男女問わずそれぞれの出来ることによって役割を決めることが適切だと思っています。家事も妻と役割を分担し、たまに料理を作ることで楽しい時間を過ごしています。
「こうあるべきだ」という固定観念で自分や相手に対してプレッシャーをかけ、価値観を押し付けることはつまらないことです。それぞれの個性や資質に合った生き方を尊重することができれば、人生のセカンドステージもきっと笑顔あふれる毎日が送れるはずです。