人生後半を後悔なく生きるためのお金と時間の整え方 第3章お金と社会保障を味方につける

セカンドライフ

今回の要点:老後資金は、総額だけで考えるより、「守る」「使う」「備える」に分けて考えると見通しが立ちやすくなります。さらに、公的な社会保障を知ることで、不安は『全部を自分で抱える』ものから『足りない部分を備える』ものへと変わっていきます。

第3章 お金と社会保障を味方につける

「いくら必要か」の前に、まず整理する
老後のお金について考えるとき、多くの人はまず「いくら貯めれば安心なのか」と考えます。もちろん備えは大切ですが、お金をただひとまとめにして眺めているだけでは、かえって不安が強くなることがあります。そんなときに役立つのが、お金を役割ごとに分けて考える方法です。目的別に整理するだけで、使ってよいお金と、残しておくべきお金の違いが見えやすくなります。

ある夫婦は、預貯金の総額だけを見て「まだ大丈夫」と考えていましたが、実際には毎月の生活費、家の修繕、車の買い替え、親族との付き合いにかかる費用が混ざり合っていて、どこまで使ってよいのか分からなくなっていたそうです。こうした状態では、数字があっても安心にはつながりにくいものです。お金は、総額よりも「何のためのお金か」が見えて初めて使いやすくなります。整理とは、節約のためだけではなく、迷わず使うための準備でもあります。

 お金の整理が必要なのは、節約のためだけではありません。むしろ大きいのは、「使ってもよい範囲」が見えることで、過度な不安や罪悪感が減ることです。老後に入ると、どうしても『減っていくお金』に意識が向きやすくなります。その結果、本当は使っても問題のない範囲のお金まで、使うことにためらいが生まれます。ですが、生活の基盤を守るお金、楽しみのために使うお金、もしものために備えるお金が分かれていれば、必要以上に我慢しすぎずに暮らしを整えやすくなります。

守るお金・使うお金・備えるお金
ひとつ目は、生活を支えるための「守るお金」です。日々の生活費、住居費、医療費など、暮らしの土台になるお金です。ふたつ目は、人生を豊かにするための「使うお金」です。旅行、趣味、家族や友人との時間など、心を満たすために使うお金です。三つ目は、思いがけない出来事に備える「備えるお金」です。急な入院、介護、住まいの修繕など、予想外の支出に対応するための余白として考えておきます。

 この三つを分けて考えると、すべてを「減らしてはいけないお金」として抱え込まずに済むようになります。老後に入ると、つい全部を守ろうとしてしまいがちです。しかし、お金は貯めることだけが目的ではありません。人生を支える道具であり、使ってこそ意味があります。使うお金を最初から確保しておくことで、楽しみや経験を後回しにしすぎずに済むようになります。

 たとえば、「守るお金」が曖昧なままだと、毎月の生活の基盤に必要なお金まで、旅行や贈り物の費用と同じ感覚で扱ってしまうことがあります。反対に、「使うお金」を最初からゼロにしてしまうと、生活は味気なくなり、何のために備えているのか分からなくなってしまいます。さらに「備えるお金」がまったくないと、急な入院や家電の故障だけで家計が大きく揺れることになります。三つに分ける意味は、節約のためというより、安心して使うための余白を確保することにあります。
 
たとえば、毎月の生活費は年金でおおむね賄えるけれど、たまの旅行や孫への贈り物に使うと不安になる、という人は少なくありません。その不安の背景には、「これは使ってよいお金なのか」が分からない状態があります。もし旅行や家族との時間に使うお金を最初から『使うお金』として位置づけておけば、同じ支出でも感じ方は変わってきます。反対に、何もかも同じ財布の中で考えていると、暮らしを楽しむための支出まで、すべて危機感の対象になってしまいます。
 
実際に三つのお金を分けて考えるときは、厳密な口座分けまでしなくても構いません。まずは紙の上で、『毎月の生活に必要なお金』『楽しみや経験のために使いたいお金』『急な出費に備えるお金』と書き出してみるだけでも効果があります。そのうえで、今の預貯金や収入を見ながら、おおまかに配分を考えてみる。こうした整理をしておくと、使う場面ごとに迷いにくくなり、必要以上にすべてを我慢しなくて済むようになります。
 
ここで考えてみたいのは、ご自身にとって『守るお金』と『使うお金』の境目がどこにあるかということです。暮らしの安心を支える支出は何で、人生を味わうために大切にしたい支出は何でしょうか。その境目を自分なりに言葉にできるようになると、お金とのつき合い方はずっと落ち着いたものになっていきます。
 
見直す順番としては、まず『守るお金』を確認し、そのうえで『備えるお金』をどこまで確保したいかを考え、最後に『使うお金』を意識的に残す、という流れが分かりやすいでしょう。多くの人は、最初に楽しみのためのお金を削りがちですが、それでは暮らしの張り合いまで失われてしまいます。大切なのは、守ることと味わうことを両立させることです。老後のお金の整理は、我慢のためではなく、納得して暮らすための設計でもあります。
 
さらに、持ち家で暮らしている人の中には、「家賃がかからないから老後は安心だ」と考えていたものの、実際には外壁や水回りの修繕、設備の交換といった支出が重なり、思った以上にお金が出ていくことに驚くケースもあります。住まいは資産であると同時に、手をかけ続ける対象でもあります。だからこそ、老後資金を考えるときには、日々の生活費だけでなく、住まいを維持するための備えも『備えるお金』の中に入れて考えておくことが役立ちます。

社会保障は、不安を和らげる支えになる
もうひとつ、老後のお金を考えるうえで忘れてはならないのが、日本の社会保障制度です。年金、医療保険、介護保険といった仕組みは、将来への不安が語られやすい一方で、実際には私たちの暮らしを大きく支えています。たとえば医療費には自己負担割合の軽減や高額療養費制度があり、介護にも保険制度があります。年金も十分かどうかは個人差があるとはいえ、生きている限り受け取れる収入という点で、大きな安心材料のひとつです。

社会保障は、普段は意識しにくいものですが、いざというときに暮らしを支える土台になります。たとえば入院が長引いたとき、医療費の自己負担には上限が設けられていることを知っているだけでも、不安の質は変わります。介護が必要になった場合も、すべてを自費で賄うのではなく、公的な制度の中で支えを受けられます。制度の内容を完全に覚える必要はありませんが、「自分は何も頼れないわけではない」と知っていることは、老後のお金を考えるうえで大きな安心になります。
 
社会保障については、「難しそう」「自分には関係ないうちに覚えても仕方がない」と感じる人もいるかもしれません。ですが、制度は困ったときに初めて調べるより、元気なうちに全体像だけでも知っておくほうが安心につながります。高額療養費制度や介護保険、年金の繰上げ・繰下げなど、細かな制度をすべて把握する必要はありません。それでも、『何かあったときに、まったく無支援ではない』と分かっているだけで、将来への見え方はかなり変わります。
 
制度は完璧ではありませんし、将来に課題があることも事実です。それでも、知らないまま不安を募らせるより、どのような支えがあり、自分がどのくらい利用できるのかを知っておくほうが、はるかに現実的です。不安だから避けるのではなく、不安だからこそ知る。その姿勢が、老後のお金との付き合い方を大きく変えていきます。
 
もちろん、制度があるから何も考えなくてよいわけではありません。けれども、制度を知らないまま「すべて自分で背負わなければならない」と思い込むのと、使える支えを理解したうえで不足分を備えるのとでは、心の負担は大きく違います。老後のお金は、自助だけで完結させるものではなく、公助と自助をどう組み合わせるかで考えるほうが現実的です。その視点があると、必要以上に怖がらずに済むようになります。
 
実際のところ、安心を支えるのは『貯金額』だけではありません。制度を知っていること、相談できる窓口があること、いざとなったときに頼れる家族や地域があることも、大きな土台になります。老後のお金を考えるとき、私たちはつい個人の努力だけで解決しようとしてしまいます。けれども、人生後半は、自分で備えることと、社会の支えを上手に使うことを組み合わせて考えるほうが、ずっと現実的です。その視点があると、必要以上に『全部自分で背負わなければならない』と思い込まずに済みます。
 
たとえば、親の介護が始まった人の中には、自分の老後資金より先に、目の前の介護費用や通院の付き添い、仕事との両立に頭を悩ませる人もいます。介護は、制度があっても時間や気力の負担が伴いますし、突然始まることも珍しくありません。そのとき、まったく知識がない状態と、相談先や利用できる制度の見当がついている状態とでは、受け止め方が大きく違います。老後のお金を考えるとは、自分自身の生活だけでなく、家族の変化にどう備えるかも含んでいるのです。
 
お金の多い少ないだけで、安心や幸せが決まるわけではありません。大切なのは、自分に必要な安心がどこにあり、どこまで備えればよいかを知ることです。そして、守るべきお金と使うべきお金を整理したうえで、限りある時間をどう生かすかを考えることでもあります。次の章では、まさにその「時間」と「経験」の価値について、さらに掘り下げていきます。
 
お金を整えることは、将来への不安を減らすためだけではありません。必要なときに使い、備えるべきときに備えるための土台をつくることでもあります。数字の整理の先には、自分らしい暮らしを守るための選択があります。そのことを忘れないことが、老後のお金と上手につき合ううえで大切です。
お金を整理しても、すぐに不安が消えるわけではありません。とくに長く『足りないかもしれない』という感覚を抱えてきた人ほど、数字を見てもなお落ち着かないことがあります。そういうときは、何度か見直しを繰り返しながら、自分なりの感覚に数字をなじませていくことが大切です。老後のお金とのつき合い方は、一度で身につくものではなく、少しずつ慣れていくものでもあります。

事例で考える 『全部守る』から『役割で分ける』へ
六十五歳のCさんは、退職金が入ってからというもの、そのお金にほとんど手をつけられなくなりました。急な出費が怖く、旅行も後回し、家電が古くなっても買い替えをためらっていたそうです。ところが実際には、Cさんは公的年金で日常の生活費の大半を賄え、預貯金の一部を『もしもの備え』として残しておけば、残りは生活を快適にするために使っても問題のない状況でした。にもかかわらず、『全部を守るべきお金』として見ていたため、必要な支出まで罪悪感の対象になっていたのです。

この章のまとめ
第3章では、老後のお金を総額だけで眺めるのではなく、『守るお金』『使うお金』『備えるお金』に分けて考える意味を確認しました。お金は、ただ減らさないためにあるのではなく、暮らしを支え、必要なときに安心して使うための道具でもあります。また、日本の社会保障制度を知っておくことは、『すべてを自分で背負わなければならない』という思い込みを和らげ、備えの現実感を高めてくれます。安心は、貯蓄額だけではなく、制度を知り、役割を分けて考えることで育っていきます。

\ 最新情報をチェック /

PAGE TOP
タイトルとURLをコピーしました