65歳以上高齢者の就業率が年々高まるなか、年金制度はどのように見直されていくのか。
厚生労働省は、以前より「高齢者の労働意欲を削ぐ」と批判されていた在職老齢年金制度について、廃止を含め見直しを検討すると発表しました。制度の見直しに合わせ、公的年金が制度を維持できるか確認する「財政検証」で実施するようです。
今後、少子高齢化の影響により労働市場での人手不足が見込まれるなか、高齢者が活躍していくことが労働供給の面からも重要となります。そのためには、「働き損を意識して年金額が減らないように就業調整する」ことに繋がっている在職老齢年金制度の廃止を含めた見直しは不可欠です。
在職老齢年金制度
在職老齢年金制度とは、65歳以上で一定の給与収入がある高齢者が対象で、基礎年金の支給額には影響はなく、賃金と厚生年金の合計額が50万円(2024年度)を超えると、超えた分の半額を厚生年金からカットされる制度です。
現在、高齢者の就業率が高まっていることを背景に対象者は65歳以上で49万人です。
厚生労働省は廃止も含めて見直したい考えのようですが、一方では、廃止は「高所得者の高齢者優遇である」との批判もあります。
計算シミュレーション
在職老齢年金制度の具体的な計算式は次の通りです。
総報酬月額相当額と基本月額の合計が50万円を超える場合
- 基本月額(厚生年金):15万円
- 標準報酬月額(賃金):36万円
- 賞与支給状況:2023年12月支給 30万円
2024年 7月支給 30万円
総報酬月額相当額:36万円+(30万円+30万円)÷12ヶ月=41万円
支給停止額:(41万円+15万円-50万円)× 1/2 =3万円
厚生年金支給額:15万円-3万円=12万円
在職老齢年金制度の変遷
1954年に行われた厚生年金保険法改正により、それまで報酬比例部分だけであった養老年金を、現在のような年金給付の定額部分と報酬比例部分の二階建ての老齢年金の構造にし、支給年齢を55歳から60歳に段階的に引き上げることになりました。
1965年の改正では、それまで在職している場合には老齢年金が支給されなかった65歳以上の在職者に8割の年金を支給する在職老齢年金の制度が導入され、遺族・障害年金に最低保障額が設けられました。また、1969年改正において、65歳未満の比較的賃金の低い人についても在職老齢年金を支給することになりました。
さらに、1985年改正により、厚生年金の加入が「65歳まで加入」になったため、65歳以上の人は厚生年金保険被保険者とならないことになり、65歳以上の人が厚生年金保険適用事業所で働いて報酬を受けていても、老齢厚生年金を全額受給できるようになりました。
ところが、年金財政が厳しくなると、2000年の改正で厚生年金の加入が「70歳まで加入」に変更となり、また、収入が多く余裕のある高齢者に対して支給停止や減額の仕組みが導入されました。
2004年からは、年金支給停止額が「標準報酬月額」ではなく「総報酬月額相当額」を用いることに変わり、在職老齢年金制度による年金支給停止額計算において、「その月以前1年間の標準賞与額の総額÷12」が支給停止額に影響することになりました。
さらに、2007年からは、厚生年金保険適用事業所に勤務する70歳以上の人は、厚生年金保険被保険者ではないものの、「70歳以上被用者」として、65歳以上70歳未満の厚生年金保険被保険者と同じしくみの在職老齢年金制度の対象となりました。
このように、年金制度は本来「現役世代(子)が高齢者(親)の面倒をみる」制度ですが、在職老齢年金制度は「現役世代(子)が苦しいときは高齢者(親)は我慢しましょう」という制度になっています。
在職老齢年金と繰上げ受給の関係
繰り上げた老齢基礎年金の部分は繰上げ受給の調整対象にはなりません。調整対象となるのは、報酬比例部分(厚生年金)の年金額に加えて、一部繰上げの場合は繰上げた定額部分(繰上げ調整額)、全部繰上げの場合は、経過的加算相当額となります。
年金制度の見直しに注目
「人生100年」時代といわれる現在、元気で自立した生活を送ることができる健康寿命は、男性で72.68歳、女性で75.38歳となっています。
また、内閣府調査の令和4年の労働力人口比率(人口に占める労働力人口の割合)を見ると、65歳~69歳の就業率は52%、70歳~74歳では33.9%となっており、いずれも上昇傾向にあります。
今のシニア層は、老後資金への不安以外にも、「いきがいや社会参加」や「健康的な生活」を目的に働く人も増えています。年金を減額するしくみが、高齢者の就業意欲を削ぐことにならないよう、これからも注目です。
一方、「人生100年」時代を豊かに生きるための選択肢が多様化しています。私たちは、残りの人生を決して後悔しないよう、セカンドライフの働き方の選択は、自分の価値観と照らし合わせ慎重に行うことが大事です。