令和3年(2021年)4月1日に施行された高年齢者雇用安定法の改正により、企業に「定年を65歳から70歳に引き上げる」「70歳までの継続雇用制度(再雇用制度、勤務延長制度)」「70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入」など、いずれかの措置を制度化することが努力義務付けられました。
人生100年の長寿社会に突入するなか、こうした法改正により「勤務継続」の道が開かれ、セカンドライフにおける働き方の選択肢は多様化しています。
年金受給開始年齢が原則65歳のなか、シニア層にとって人生の後半戦を経済的に安心して生活を送るためには、定年後の働き方(再雇用・転職・起業など)やいつまで働くか(60歳・65歳・70歳以降)などの選択がとても大事になります。
70歳以降も働く?
日本経済新聞社が2023年10~11月に行った「働き方・社会保障に関する世論調査」で、何歳まで働くつもりか尋ねたところ、70歳以上の回答が39%で最も高かったようです。
また、内閣府が発表した「高齢者社会白書」では、60歳以上の男女を対象に「あなたは何歳頃まで収入を伴う仕事をしたいですか?」と聞いたところ、最も多かったのが「働けるうちはいつまでも」との回答で42%でした。
このように、働く意欲が高いシニア層ですが、一方では、自分の将来にどのようなことが不安に感じているかの質問には「生活資金などの経済面」が最多で70%に上っており、年金だけでは老後生活が不安なので、長く働くことで生活を維持することが必要なようです。
在職老齢年金制度
ひと昔前は、60歳定年後は家でゆっくり隠居生活のイメージでしたが、前述のアンケート結果の通り、今は「健康ならいつまでも働き続けたい」と思う元気なシニア層が多いようです。
しかし、60歳以降、会社に在職して厚生年金保険の被保険者になると、在職老齢年金制度により年金額と給与や賞与額に応じて、年金の一部または全額が支給停止になる場合がありますので注意が必要です。
在職老齢年金制度
在職老齢年金とは、年金の受給対象となった60歳以上の方が、会社などで働いて賃金をもらいながら受け取れる老齢厚生年金です。
・60歳以降も会社に在職し厚生年金保険の被保険者の場合
会社に在職する70歳未満の厚生年金被保険者は、70歳まで厚生年金保険料を払い続けていくことになります。つまり、60歳から69歳までは厚生年金保険の被保険者でありながら厚生年金保険の受給権者というケースが出てきます。この場合、60歳以降、在職して厚生年金保険の被保険者になると、年金額は報酬に応じて減額されることがあります。
この制度では、60歳台前半の人は特別支給の老齢厚生年金が、65歳台後半の人は老齢厚生年金が減額されることがあります。いずれも、支給停止に該当しても、老齢厚生年金が一部でも支給される場合には、加給年金額は全額支給されます。
- 70歳以降も会社に在職するが、厚生年金保険の被保険者ではない場合
2007年から70歳以降で在職中の人にも60歳台後半の在職老齢年金の仕組みが適用されています。70歳以上の人は在職していたとしても被保険者とはなりません(保険料負担なし)が、労働時間等の要件が被保険者に該当する場合、被保険者とみなして60歳台後半の在職老齢年金の仕組みを適用し、老齢厚生年金の一部または全部が支給停止されます。
・自営業、個人事業主の場合
在職老齢年金は厚生年金保険の被保険者だけに適用される制度であるため、事業所得や不動産所得等、他の所得をいくら得ていても調整対象外となります。
在職老齢年金の計算式
老齢厚生年金を受給されている方が厚生年金保険の被保険者であるときに、受給されている老齢厚生年金の基本月額と総報酬月額相当額に応じて年金額が支給停止となる場合があります。なお、平成19年4月以降に70歳に達した人が、70歳以降も厚生年金適用事業所に勤務されている場合は、厚生年金保険の被保険者ではないが、在職による支給停止が行われます。
また、2023年度の支給停止調整額は48万円ですが、この額は毎年度見直され、2024年度の支給停止調整額は50万円に引き上げられます。
・総報酬月額相当額=その月の標準報酬月額+その月以前1年間の標準賞与額の合計÷12
※70歳以上の場合は、それぞれ「標準報酬月額に相当する額」「標準賞与額に相当する額」となる。
・基本月額=加給年金額を除いた老齢厚生年金(報酬比例部分)の月額
・支給停止額=(総報酬月額相当額+基本月額-支給停止調整額48万円)x1/2
年金支給額の計算式
基本月額:15万円(加給年金額を除く)
標準報酬月額:36万円
賞与支払状況:2021年12月支給 30万円
2022年 7月支給 30万円
総報酬月額相当額:36万円+(30万円+30万円)÷12=41万円
支給停止額:(41万円+15万円-48万円)x1/2=4万円
年金支給額:15万円-4万円=11万円
まとめ
セカンドライフにおける働き方の選択肢は多様化し、自分の価値観やライフプランにより選択の幅が広がっています。定年後、働き続けながら年金を受給することは、年金だけでは老後の生活が心配な人や、より豊かな生活を送りたい人にとって大きなメリットになります。
ただし、総報酬月額と年金の基本月額合計が48万円を超えると年金が減額(もしくは、全額支給停止)されてしまうので注意が必要です。今後のライフプランを検討する際は、在職老齢年金の年金受給額を計算に入れた上で、自分に合った働き方を選択すると、より豊かなでメリハリある生活が送りやすくなります。