最近、ドラマ『Tシャツが乾くまで』の注目度がじわじわと増しているようです。
出演する俳優一人ひとりの言葉や表情がとてもリアルで、細かな感情の揺れまで伝わってきます。その緊張感に引き込まれ、最後まで目が離せません。見終わったあとも、心の奥に深い余韻が残ります。
スピッツ『見知らぬ糸』を聴いて
そこに流れるスピッツの主題歌「見知らぬ糸」もまた、不思議と心を揺さぶります。曲の歌詞からは、これまでの人生では気づかなかった人や出来事とのつながりが、細い糸のように少しずつ絡まり合い、やがて新しい色を生み出していくようなイメージが伝わってきます。
その色は、ただ人生を飾るだけではなく、時間を重ねるうちに、傷ついた心や立ち止まった自分をやさしく包み込むものへと変わっていくのかもしれません。この曲は恋愛の歌として聴くこともできます。しかし、その歌の響きは、定年後に始まる第二の人生にも重なって感じられます。
定年後に始まる第二の人生
定年という言葉には、どこか「終わり」のような響きがあります。長年続けてきた仕事を離れ、毎朝決まった時間に会社へ向かう生活がなくなる。名刺に書かれていた肩書きや、職場での役割も少しずつ遠ざかっていきます。
すると、急に時間だけが目の前に広がり、「これから自分は何をすればいいのだろう」と戸惑う人も少なくありません。忙しかったころには待ち望んでいた自由な時間なのに、いざ手にしてみると、自由であることがかえって不安になることもあります。
けれど、本当に終わるのでしょうか。
スピッツの「見知らぬ糸」を聴いていると、定年後の人生は「終わり」ではなく、むしろ、これまでとは違う糸が見えてくる時間なのではないかと思います。
この曲に出てくる「糸」は、最初から自分が知っているものではありません。自分の人生には関係がないと思っていた人や出来事が、いつの間にか自分の人生とつながっていきます。そして、絡まり合うことで、それまでにはなかった色を生み出していきます。そんな世界が、この歌には感じられます。
これまでと違う別の糸
定年までの人生では、「自分は何者なのか」が比較的わかりやすかったのではないでしょうか。
会社では役職があり、仕事があり、部下や同僚がいました。忙しい毎日の中で、「自分は必要とされている」という感覚もあったかもしれません。
ところが定年すると、その糸が突然切れたように感じることがあります。
毎朝の通勤電車もありません。会議もありません。電話も鳴りません。昨日まで当たり前だった人間関係が、少しずつ遠ざかっていきます。
そこで「これから何をすればいいのだろう」と戸惑うのです。
しかし、もしかすると、切れたのではありません。
これまでとは別の糸が、まだ見えていないだけなのです。
昔から興味があった写真
地域のボランティア
学生時代の友人との再会
夫婦で出かける旅行
現役時代には「仕事とは関係ない」と思っていたことが、定年後には人生の中心になることさえあります。
それは、これまで自分が歩いてきた人生とは一見つながっていない「見知らぬ糸」です。
けれど、その糸を一本、また一本と手に取っていくうちに、思いもしなかった人生の模様ができていきます。
現役時代には「仕事とは関係ない」と思っていたことが、定年後には人生の中心になることさえあります。
それは、これまで自分が歩いてきた人生とは一見つながっていない「見知らぬ糸」です。
けれど、その糸を一本、また一本と手に取っていくうちに、思いもしなかった人生の模様ができていきます。
新しい人生を編みなおす
第二の人生とは、まったく新しい人生をゼロから始めることではないのだと思います。
むしろ、第一の人生で集めてきた経験
出会い
失敗
喜び
後悔
そして忘れかけていた夢
そうしたものに、新しい人や出来事を重ねて、
もう一度、自分の人生を編み直していくことなのではないでしょうか。
定年後には、会社という大きなつながりがなくなります。
その代わりに、これまで気づかなかった小さなつながりが見えてきます。
朝の散歩で顔を合わせる人
昔の友人から届く一通のメール
図書館で偶然手に取った一冊の本
初めて参加した地域の集まり
夫婦で交わす、現役時代にはなかったゆっくりした会話
そんな些細な出来事が、新しい人生の糸になります。
だから、定年後を「余生」と呼ぶのは、少し違う気がします。
それは、これまでの人生の残り時間ではありません。
第一の人生で得た糸に、まだ見ぬ糸を重ねていく時間です。
どんな色になるのかは、まだわかりません。
少しくらい絡まってもいいのです。
思ったように編めなくてもいいのです。
まとめ
人生は、きれいに整った一本の糸だけでできているわけではありません。むしろ、さまざまな糸が絡まり合うからこそ、そこにしかない色が生まれます。
そう考えると、定年は少し楽しみなものになります。
「終わった」のではありません。
ここからは、また新たな人生を編み始める時間です。
